香りマーケティングの論文
香りマーケティングを支えるエビデンス
植物から採取されるエッセンシャルオイルは数百の分子からできており、呼吸などにより体内に取り込まれて体中をめぐりリラックスやリフレッシュなど多様な効果を心身にもたらします。
お店に入った瞬間から心を解きほぐすような香りを店舗に満たしていれば、くつろぎを提供できることになりスタッフとの会話も弾み売り上げの拡大も期待できるというもの。
この点についてもう少し詳しくお伝えするために2つの最新の報告をご紹介しながら香りマーケティングの商業的有効活用についてお伝えします。
芳しい香りをマーケティングに活用すれば嗜好行動が起こる
一つ目の報告は好印象の香りを意図的に選んで商業的アドバンテージを狙うといった内容です。
- 匂いや香りはいくつもの嗅覚受容体を刺激し、個々の嗅覚受容体ごとに「好き」「嫌い」といった価値情報を持っている
- 特定の匂いや香りに対するリアクションは、個々の嗅覚受容体の価値情報の足し引きの結果で決まる
- 嗜好行動を引き起こす香りを活用すれば「よりかぐわしい匂い・香り商品」として認知され商業的に有利
出典:2019年東原 和成Contribution of individual olfactory receptors to odor-induced attractive or aversive behavior in mice
つまり上の報告は「より多くの人が好む香りをマーケティングに活用すると有利」と伝えているエビデンスと言えます。
店舗に不快な匂いが漂うと即退出される・不快な匂いに0.4秒の拒否反応
次は、「不快な匂いへの拒否反応について」の報告です。
- 匂い物質が嗅覚に刺激として伝わり、これが中枢神経に伝わって「回避行動」に至るまでの所要時間は0.4秒
- 1の行動は無意識で行なわれており、経験則による認知的な行動ではない
- 嗅球は大脳辺縁系(嗅脳とも呼ぶ)と匂い物質の情報をやりとりし、大脳辺縁系は危険を検出する役割を果たす
出典:2021年Johan N. LundstromらThe human olfactory bulb processes odor valence representation and cues motor avoidance behavio
二つ目の報告は、「不快な匂いや香りを放置するとマーケティング的にかなり不利」という課題を伝えています。
店舗という顧客を迎える場が店舗特有の好ましくない匂いになっているとすれば、それは「店舗から無意識に去る」といったような回避行動を促しかねないからです。
宮崎大学農学部教授新村芳人
参考
なお、前述した東原和成教授らの報告の概要は以下の通り。
出典:東京大学 大学院農学生命科学研究科
ムスコン(ムスクの合成香料)は高感度MOR215-1と低感度MOR214-3のいずれも活性化、このとき嗜好行動が起こる
Z5−14:OHの場合のリアクションは以下の通り
- 高感度Olfr288単独が活性化されるとだと嗜好行動
- 低感度OlfrTs単独が活性化されると回避行動
- 高感度Olfr288と低感度OlfrTsのいずれも活性化されると回避行動
- 嗅球
- 嗅上皮
- 嗅覚受容体
匂いや香りの正体は複数の分子の集合体です。ジャスモン酸とインドールが嗅覚受容体に付着すれば「ジャスミンの花の香りだ」というように認識されます。
実は匂いや香りは分子そのものが持っている物理的な特質ではなく、私たちの知覚が生み出しています。つまり匂いや香りの感知は知覚で起きている出来事に過ぎません。
下のように「@香り分子が嗅覚受容体に付着→A嗅球に刺激が伝わる→B2の情報が大脳に伝わる」といったように脳内での情報伝達で香りが認識されているだけなのです。