商業施設のアイデンテティ・自己表現としてのアロマ空間デザインの有効性
アロマ空間デザインでは、「企業のアイデンテティを感じられる商空間デザイン」「自己表現の助けとなる香り」といった視点が大切です。
ここではその参考としていただける情報としてアイデンテティとしての匂いや香りの側面と、それをどのように商空間で有効活用できるのかをお伝えします。
The costomers wants to experess his or her own indibisuality through the brand.Help every costomer to bring out their personal expression on your prosucts. 顧客はブランドを通して個性を表現したがっている。自己表現しようとする顧客を商品により助けよ。 ‐Martin RIndstrome‐
匂いや香りの起源は「アイデンテティ」であり、コミュニケーションツールであるという意味
花は甘い香りを放ってミツバチを誘因し、種を残すために花粉を運んでもらおうとします。
動物の場合は匂いでそれぞれを識別したり、匂いを残してテリトリーを主張するのが日常です。
動物植物いずれも匂いはそれぞれを識別するための重要なシグナルであり、かつそれぞれがコミュニケーションするためのアイデンテティツールであり、生存のために不可欠な手段となっています。
香りにまつわる映画に見る香りのアイデンテティ
出典:映画パフューム
映画パフュームをご存じでしょうか?世界45か国で1500万部のセールスを生み出したパトリック・ジュースキントの小説が映画化されたストーリーです。
並外れた嗅覚を持つ主人公グルニュイユはある時美しい少女が放つ芳しい香り(皮膚から放たれる体臭)をなんとか保存する方法はないか?と思い立ち、香りの都であるフランスグラースまで調香の修行に出ます。
djapan.com
映画のクライマックスは目を疑うほど、そして絶句するほどグロテスクな内容ではあるものの、グルニュイユが探し求めていた最高の香りも「アイデンテティとしての香り」でした。
人の皮膚から放たれる匂い・香りとは「アミノ酸・内分泌物質(ホルモン)・皮脂」などの混合物で、当然ながらそれらは人それぞれ固有で正真正銘の世界に一つだけの香りです。
映画でグルニュイユの師が語るエジプトの香りについての内容がのちのちに作成された最高の香りの伏線となっています ※映画パフュームより
超人的な嗅覚を持つグルニュイユが最高の香りと称した少女たちの香りは、「変態の好んだ香り」にとどまることなく、1800年代フランスの大衆・国王までを平伏させてしまうほどの力がありました。
天才調香師が見出した最高の香りが「美しい少女の香り」というアイデンテティにまつわるものだった点がおもしろいですね。
平安時代でも香りによるアイデンテティの表現が日常
出典:国立国会図書館
平安時代の貴族の間では、髪や着物に香りを焚き込める空薫物(からだきもの)といった身だしなみやマナーが浸透し、アイデンテティの表現として香りを活用するのが日常でした。
紫式部の光源氏においては、「衣に炊き込めてた香りが漂ってきて、空蝉は部屋に訪れたのは光源氏だったことに気付いた」といった描写があるように、平安時代では香りで人を認識するのがスタンダードだったのです。
また、平安時代の貴族は衣服の他に手紙・小物に至るまで自分の香りを焚き込んで自己主張の手段として活用されていました。
性別・年齢・身分などによって香りによるアイデンテティの表現をしていただけでなく、香りを嗅ぎ分けて接触の仕方を変える・行動範囲を変えるなどかなり実用的な機能があったのではないかと考えられます。
香りは端的な雅やかな文化という枠にとどまらず、きわめて合理的なツールだったのです。
私たちが無意識にしている生存行動
私たちの毎日にも実は前述のような動物の生存にまつわる行動が無意識に行われています。体臭によって交際相手を見極めたり、匂いによって食の好みを判断したり。
現代人にとっても香りや匂いは重要なメッセージであり「自分にとって価値があるかどうか?」を見極めるための情報と言えます。
香り市場は年間3800億円を上回るという現代は、柔軟剤やトイレタリー商品に至るまで日常の生活用品のあらゆるものに香りが添付されるようになり、乱立しているという点も否めません。
生き延びるために嗅覚を使うという昔からの知恵をブラッシュアップして新しい快適性を追求する時期にあります。
FEDEXによる商業的な香りの意欲的実験
欧米では多くの企業が香りによる意欲的な実験を試み、爆発的な売り上げに結びつけてきました。アメリカの配送業者FEDEXの一例をご紹介します。
FEDEXの巧みな香りの実験と戦略
出典:日本経済新聞
FEDXのスポンサー活動として、ラグビーのようなスポーツイベントの最中にFEDEXを象徴するかのような爽快な香りを噴霧するという試みが行われました。
スポンサーチームがファインプレーをするたびにFEDEXの香りが噴霧されると、オーディエンスは高揚感をさらに掻き立てられます。
それだけでなく、FEDXの香りを嗅ぐと爽快な記憶がオーディエンスの中に創造され、観客の脳に勝利とFedexが刷り込まれ、さらに香りがブランド化に貢献するようになりました。
FEDEXはこのスポンサー活動の後に、ブランディング香を拡大する取り組みとしてビッグセールを試みたと言います。
毎日600万人に配送されるFEDEXのパッケージの封を開ける度に、FEDEXの香りが放たれるようにしたところ、毎日10〜1000万人もの顧客がFEDEXのブランディング香を購入したというのです。
FEDEXのこの成功は勝利と香りの爽快さを結びつけ、さらにお目当ての商品が配送されて封を切ろうとした瞬間に放たれるように意図していた、といったところにあるでしょうか。言うまでもなくその香りはFEDEXの自己表現ツールとして機能していたわけです。
香りを顧客の生理学的な反応パターンと結び付け、エモーショナルな体験を生成することに成功しただけでなく、実に戦略的に利益も生み出しています。これはまさに「香りを「エモーショナルな体験を再現できるツール」として企業戦略に導入した好例です。
FEDXのような取り組みが商業活動に影響を与えるポイントとして以下が挙げられます。
- 幸福感・ポジティブな経験と企業がイコールになりやすい
- 香りの印象が、企業に対する印象に結びつく
日本の商業施設で企業を象徴する香りを演出する
冒頭でお伝えしたアイデンテティとしての香りを国内のビジネスシーンで活用するにはどうすればいいでしょうか?
これまでお伝えしてきた点から、「企業ブランドイメージの香り」を戦略的に活用してアイデンテティを打ち出すといった形で行うのがおすすめです。
この取り組みは決して即効性があるわけでもありませんが、顧客の中に御社を埋め込んでいくブランディングとしてきわめて有効です。
これには深い理由があります。消費者がインターネット検索で自分に一番フィットするものをいつでもどこでも選べる時代になり、一社が独占して選ばれるというようなケースはなくなりました。
顧客は感情を揺さぶられるなどシンパシー(共感)を感じられる企業の商品サービスを欲し、一番自分にフィットすると感じられることを求めています。
これがまさに消費行動においての自己表現であり、アイデンテティです。
好ましい感覚体験を提供する企業に、人は無意識レベルで好印象を持ちます。一番自分にフィットすると感じてもらうための施策として、古来から活用されてきた自己表現ツールとしての香りは理にかなった方法と言えましょう。
参考
書籍:C Russel Brumfield Wiff、Mrtin Rindstrome Brand sense