ケルンの水・ナポレオンがヘヴィロテしたケルン水オーデコロン
「ナポレオンは戦争に出かける前と、戦争から帰ってジョセフィーヌ夫人の元へ帰るときに、元祖ケルン水オーデコロン・ケルンの水をヘヴィロテして使っていた」というのは事実のようで、その病みつきの理由は秘密のレシピにあります。
ここではケルン水オーデコロンの元祖と言われているケルンの水について、歴代の愛用者・どんな香りなのか?・ポーチュガル4711との違い・再現香についてお伝えしています。
ファリーナのケルン水オーデコロンの歴代愛用者
元祖ケルン水オーデコロンの愛用者には名だたる著名人がずらり並んでいます。
この錚々たるメンバーを引き付ける香り、「どんだけ…」です。
このケルンの水び歴代愛用者の中でも最も有名なのがナポレオンボナパルトでしょう。
ナポレオンは大の香り好きで清潔だったので、ファリーナのケルン水オーデコロンを一日1〜2本使っていたとか。
当時のケルン水オーデコロン1本の価格を現在の価格に還元すると1,400ドル(約15万円)だったとされ、これは当時のお役人の1年分の給与に値するそうです。
このとおり香りそのものが裕福層だけが使える高級品でしたし、絶大な人気を誇るファリーナのケルン水オーデコロンは増してきわめて高いプレミア感があったのではないかと思います。
本家ケルン水オーデコロンはどんな香り?
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本家ケルン水オーデコロンはきわめてさわやか、フレッシュなベルガモットといくつかの柑橘やジャスミンなどがブレンドされ、時代が変わっても高い評価を受ける香りです。
香りの濃度が高い香水よりもかなり低く、まるでシャワーを浴びるように香りを纏える軽やかさです。
この香りを世に生み出したジョバンニマリアファリーナは、彼の兄にあてた手紙の中で故郷のイタリアを懐かしみながらこう言いました。
私のクリエーションは、イタリアの春雨後の朝のようです。ベルガモットや花、イタリアの香草が五感を掻き立てます。
‐出典:ヨハンマリアファリーナが兄にあてた手紙より‐
想像するに、この香りのメインとなっているベルガモットが生息するイタリアの春は、雨が降りがちながら晴れ間がやってきた朝にはうつうつとしたものを一掃・洗い流すような清々しさが広がっているのでしょう。
雨露が立ち上るとともに、ベルガモット農地からほのかな香りが感じられるような、さわやかさを思い起こさせます。
本家ケルン水オーデコロンと4711ポーチュガルの違い
4711として知られるオーデコロンと、本家ケルン水オーデコロン、そして国内でよく見かける4711ポーチュガルについて、レシピは似通っていますが厳密に言えば別の香りです。
- 【ケルン水・最古の香水】1709年ジョヴァンニマリアファリーナによって本家ケルン水オーデコロンが作成される
- 【4711】1ののちにケルン商人だったミューレンスが本家ケルン水オーデコロンのレシピを参考にして酷似した香り4711を生み出した
- 【4711ポーチュガル】柳屋本店により2が原型となった「ポーチュガル4711」が作成される
違いは「伝統を重んじより格式高さが際立つのが元祖ケルン水オーデコロン」、「後続でより世界中に知られているのが4711」、「日本人向けに開発されたのがポーチュガル4711」と言えましょう。
元祖ケルン水オーデコロンはヨハンマリアファリーナの子孫によって伝統的な製法を守って生み出されています。
ファリーナの香りの工房は、世界大戦で崩壊したのち再建されている
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一方4711は200年の歴史がありながらオリジナルではありません。
4711のサイトでは、ミューレンスが婚礼の折に調合のブレンドレシピをもらい、当時のケルングロッケンガッセ地区の4711(現代で言う番地的な位置づけ)に工房をオープンさせたという経緯が説明されている
現代の4711ビル
※当時のミューレンスの工房・ケルングロッケンガッセ地区4711番地
※婚礼の際に牧師から羊皮のレシピを渡されるミューレンス
この流れは1874年に施行された商業保護法にあります。
それ以前、本家ケルン水オーデコロンは模倣品に対して商標を主張することができなかったという事情があるようで、当時は同じ名前の香水がいくつも存在していたとか。
- 模造品防止のワックスシール
- ラベルには調香師が1本1本サインしている
- ワインの樽同様、樽の中で2年ほど熟成している
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本家ケルン水オーデコロンのメインとなっているベルガモット
出典:tree of life
柑橘は紀元前300年代にアレクサンドロスの東方遠征による影響※で伝播しています。※アレクサンドロス3世も大の香り好きだった
本家ケルン水オーデコロンのレシピにおいてメインとなっているベルガモットは、レモンとライムの交配種と考えられているようです。
出典:tree of life
大航海時代あたりからベルガモットが実験的に栽培されはじめその香りの良さから、やがてこれが商売ベースへ発展していきます。
日常で最も手軽にベルガモットの香りをお試しする方法としておすすめなのが、紅茶葉アールグレイ。アールグレイは紅茶葉にベルガモットの香りをなじませたフレイバーティ。
ベルガモットそのものの香りをより実感するためには、アールグレイのお茶から立ち上る香りよりは、ティーバックに残った香りを嗅ぐという方法が一番お勧めです。
本家ケルン水オーデコロンを生み出したヨハンマリアファリーナ
ヨハンマリアファリーナ
ここでは本家ケルン水オーデコロンを生み出したヨハンマリアファリーナ(Johann Maria Farina 以下ファリーナ)について詳しくお伝えしたいと思います。
北イタリアに生まれ育ったファリーナはキャリアアップを目指しててケルン(現ドイツ)に移り住んだとか。叔父の工房に入りのちに超高級香水店をオープンします。
もともとファリーナは幼少から香り好きであり、トレーニングの賜物で元祖ケルン水オーデコロンを世に生み出したのです。
幸運にも市民権を与えられたファリーナはケルンにちなんだ「ケルン水オーデコロン(ケルンの水)」と命名したそうです。
本家ケルン水オーデコロンが爆発的人気になった理由
ケルン大聖堂
ファリーナのケルン水オーデコロンは、18世紀のヨーロッパで爆発的な人気を集めました。
この理由としてケルンはおろか当時のヨーロッパは黒死病が流行する・裕福層であっても入浴もままならないという状況にありました。
これを植物の力で悪臭を目立たなくさせたり、消臭したりするのがファリーナのケルン水オーデコロンで、問題解決策として使用されるようになったのです。
これに対してファリーナのケルン水オーデコロンは当時のドイツの人々が抱える悩みを心理面で一掃してしまうような明るくクリアな印象を持たせたのではないかと思います。
ほどなくしてファリーナのケルン水オーデコロンは、「社交界デビューに欠かせないツール」というような認識が浸透、やがてヨーロッパ以外でも絶大な人気となったのです。
これだけ言ったとしたら、「ケルン水オーデコロンはさぞ相当な商業的に成功したのだろう」と邪推してしまいますが、しかしそうしたポジティブな出来事だけでは済まされませんでした。
フランス革命や世界大戦という危機を体験し、世界中の選りすぐった産地から原材料を取り寄せなければ成り立たない高品質な商品であるがゆえに原料の調達がままならない状況もあったと言うのです。
後述の通りイタリアのベルガモットにしても場所を選ぶ植物であり、ジャスミンも超高級香料ですので、無尽蔵に生産できるわけでもなかったのでしょう。
ケルンの水のレシピ・調香師が再現〜時代を超えた人気の秘密を推測〜
ファリーナのケルン水オーデコロンのレシピの全貌は公開されておらず、1709年に世に生み出されてから現在までその秘密のレシピを知っているのはたったの30人。
知れているレシピは、前述したファリーナが彼の兄にあてた手紙で触れられているベルガモットなどの柑橘や花の香りです。
私雨宮悠天は過去10年の間、このファリーナのケルン水オーデコロンを数えきれないほど再現してきました。
ほか数えきれないほどの香りをご提供してきた経験上言えるのは人気になるのも必至という点。 それだけ時代を超えた卓越性があるブレンドなのです。
- Top note:Bergamot,Orange sweet
- Middle note:Jasmin,Lavender,Cypress
- Base note:Sandal wood,Pachouli
それでは元祖オーデコロンケルン水のレシピについて解説します。
柑橘のアロマは、どの柑橘同士をブレンドしてもほぼ間違いなく好印象ないい香りが出来上がります。
特にイタリア南部のベルガモットは陽気でのどかなな地中海の太陽を思い起こさせ、一瞬で気分を明るくさせるイメージがあります。
ファリーナのケルン水オーデコロンは確かに老若男女・年代を問わず慕われる香りではあるのですが、ナポレオンに見られるようにどちらかと言うと男性の大ファンが多いです。
男性の間で人気を不動にしているのは、ジャスミンにあるのではないかと推測しています。
ジャスミンはアドレナリンを促すやる気を起こさせる香りです。ナポレオンも戦場に出かける前英気を養うためにこのケルン水オーデコロンを活用したのではないでしょうか。
ベースノートにはウッディ系のアロマがブレンドされていると考えられています。
ケルンの水と呼ばれるだけあり、印象としてはまるで水のような感じの香りではありますが、そのイメージとなっているみずみずしいトップノートの柑橘だけではすぐに香りが揮発してしまうので、重たいウッディ系の香りが必要なのです。
このファリーナのケルン水オーデコロンの使命は「いつも同じ香りがすること」だと言います。
ワインのように同じ畑で育ったとしても違う風味になるのと同じで、アロマも植物を原料としている限り含有成分が異なります。
いかなることがあろうと、この伝統的なファリーナのケルン水オーデコロンにおいてはなお同じ香りを保つことを重視しなければならないのです。
レシピは秘蔵とされているようですが、この原材料の特性からして、ブレンドの比率はおそらくその年に取れた原材料によって微妙に変わるのではないだろうかと考えます。
英雄たちが時代を超えて愛用した元祖ケルン水オーデコロン
時代を超えて愛用されている元祖ケルン水オーデコロンの魅力は、どんな人にも親しまれるブレンドとさわやかさにあるのでしょう。
かつての英雄たちがそうだったように、香りを味方につけて意気揚々としたポジティブマインドを保っていたいものです。
執筆:調香師 雨宮悠天
【出典】
*:farina.com
※:4711.com
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