香水の分類|フレグランスの選び方・現代の傾向も
分類学者ミッシェルエドワーズによるフレグランスホイール
星の数ほどの種類があるフレグランス、どんな香りを使用するかによってその印象・得られる気分も実にさまざま。
ここでは香りの種類を分類、そしてそのイメージの助けとなる情報としてそのカテゴリで知られるフレグランス商品もご紹介しています。
香水の種類と分類
曲調を表す言葉にメロディがあります。「明るいメロディ」などといったように使われ、その曲を聴くとどんな気持ちになるのか?どんなイメージの曲なのか?といったことを知りうる上で便利です。
音楽で言うメロディを香りに置き換えた言葉として調香師たちが使っているのが、ノートNOTEという言葉で、強いて訳すならば「香調 香りの調べ(「調香」ではない)」となります。
シトラス・ウオーター・グリーン・フルーティ・フローラル・オリエンタル・ウッディ・シプレ・フゼア・アンバー
以下時流によってニーズが高いノートを分類してお伝えしていますので、ご自身に合いそうな香水の選び方の助けとしていただけたら幸いです。
※なお、ここでは便宜上「香りの製品をフレグランス」と呼んでいますが、通常香りの賦香率によってパフューム、オードトワレ、オードパルファンなどと分類して呼ばれます。
香水の分類@シトラスノート
レモン・ライム・ベルガモット・オレンジビター・オレンジスイート・グレープフルーツなどによる柑橘果皮の調香で、一瞬で辺りに明るさをもたらす。
フレッシュ・さわやか・清潔感・若々しさ・透明感といった印象に。
- TOP:オレンジ、ベルガモット
- MIDDLE:ヴァイオレット、ラベンダー
- LAST:シダーウッド、パチュリ、アンバー など
香水の分類Aグリーンノート
Hermes
ガルバナム・ヴァイオレットリーフなどによる調香で生命力を賦活、若々しさ・瑞々しさ・生き生きとした印象を与える。
- TOP:グリーンマンゴー、睡蓮
- MIDDLE:ピオニー、ヒヤシンス、イグサ
- LAST:インセンスなど
なお、グリーンノートのフレグランスには合成香料CIS−3Hexangiolという青葉調の香りが含まれている場合が多く、それは未熟の青りんごのような甘さや酸味を兼ね備え、かつ若葉の茶葉のような青々しく瑞々しさを表現するために用います。
香水の分類Bウオーターノート
Leau de issey
スイカ・メロン・キュウリ・柑橘などによる調香で、まるでマイナスイオンを浴びるかのような癒しを得られる。瑞々しさ・透明感・清潔感といった水を思わせる印象。
※なお市場商品のウオーターノートは合成香料カロンが使用される
なお、ウオーターノートには次のようにアクアノートとマリンノートが存在しています。
- TOP:メロン、シクラメン、ローズ
- MIDDLE:スズラン、リリー
- LAST:オスマントス、ムスクなど
Dolce & Gabbana Light Blue
- TOP:シチリアンレモン
- MIDDLE:ジャスミン、竹
- LAST:シダーウッド、ムスクなど
このフレグランスの挑発的広告イメージとは裏腹に、ユーザーの多くは「パブリックスペース・オフィスでも身に付けられる汎用性高い香り」と評価しています。
ウオーターノートのかつての代表格だったジバンシーウルトラマリンはワンプッシュで強烈な印象を残すフレグランスでした。
一方上で挙げたようなロードゥイッセイミヤケやライトブルーは「インナーウエアや薄手のコットンシャツのように身に纏う感覚で付ける」という印象でとても軽やかです。
香水の分類Cフルーティーノート
salvatore ferragamo eleganza
洋ナシ(ペアー)・ピーチ・ネクタリン・カシスなど甘い果物による調香で、かわいらしさ・可憐さ・若々しさ・瑞々しいといった印象を与える。
※フルーティノートの市場商品の多くは合成香料で”フルーティ”を表現する
- TOP:ペアー、グレープフルーツ
- MIDDLE:アーモンド、オスマントス
- LAST:パチュリ、ムスク など
香水の分類Dソフトフローラルノート
花とムスクによる調香で、やさしさ・柔和・おだやかさ・つつましい女性らしさ・上品な印象を与える。
- TOP:ホワイトローズ
- MIDDLE:マグノリア
- LAST:ムスクなど
香水の分類Eフローラルオリエンタルノート
chanel coco eau de parfume
花と東洋の動植物香料による調香で、華やかさ・女性らしい・妖艶な印象を与える。
- TOP:マンダリン、ネロリ、ターキッシュローズ
- MIDDLE:インドジャスミン
- LAST:パチュリ、トンカビーン、バニラなど
香水の分類Fソフトオリエンタルノート
GUERLAIN シルクスカーフ1990年代にサムサラ輪廻を表すボトルが描かれている INPI by RUNWAY Magagine
東洋の香りとムスクによる調香りで、前述フローラルオリエンタルよりも妖艶さにおいてかなり控えめ、その印象は実に多様。
この微妙な香りの匙加減を象徴するかのようなフレグランスが例として挙げるゲランサムサラです。
- TOP:ジャスミン、イランイラン
- MIDDLE:ホワイトムスク
- LAST:サンダルウッド、バニラなど
フローラルオリエンタルと見間違うフレグランスではあるものの、清潔感を与えるホワイトムスクが使用されていることから紛れもなくソフトオリエンタルの香り。調香師ジャンポールゲランはインドの輪廻(サンスクリッド語でSAMSARA)の概念をこの香りで表現。神聖で高貴な香調。
香水の分類Gオリエンタルノート
Guerlin sharimar
オリエンタルノートは、オリエンタルフローラル・フローラルオリエンタル・ソフトオリエンタルといった3つのカテゴリに分類されています。
調香において”端的なオリエンタルノート”はありますが、好みの多様化傾向からオリエンタル調をさらにカテゴライズしたフレグランスが多いので、ここでは調香りにおけるオリエンタルという概念そのものをお伝えしましょう。
それを一言で言えば東洋的な香り、以下の通りイスラム圏・インド・中国・東南アジア一帯といった広範囲な地域に生息する動植物が原料になっており、かなり多様な性質を持つのです。
オリエンタルノートの要素となる香りのキーワードは濃艶・重く香る
- スパイス:ブラックペッパー・ピンクペッパー・カルダモン・ナツメグ・シナモン
- バルサム:樹脂系の香りとしてフランキンセンス・ミルラ・ベンゾイン
- アニマル:ムスク(麝香鹿の嚢胞分泌物)・アンバー龍涎香(マッコウクジラの腸結石)・シベット霊猫香(麝香猫)・カストリウム海狸香(ビーバー)
- ウッディ:サンダルウッド(ビャクダン)・アガーウッド(沈香)・パチュリなど
東洋がいったいどこなのか?実は確固たる定義はない
なお、動物性揮発性芳香物質は、絶滅危惧種保護の目的から現在はほぼ確実に模倣版合成香料が使用されます。
※ムスクは麝香鹿(下)の嚢胞から採れたものが使用されていた
下で解説している通り古くから東洋産の香りはきわめて重要なポジショニングだったことから、オリエンタルフローラル・フローラルオリエンタル・ソフトオリエンタル・ウッディオリエンタルといったように複数に渡って東洋調がカテゴリされています。
Guerlin sharimar
- TOP:マンダリン、ベルガモット
- MIDDLE:ジャスミン、ローズ
- LAST:バニラ、トゥルーバルサムなど
香水の分類Gウッディオリエンタルノート
BVLGARI
東洋の香りと樹木による調香で、その印象は実に多様。
- TOP:ペアー、竹
- MIDDLE:ロータス、シナモン
- LAST:サンダルウッド、ムスクなど
調香師アルベルトモリヤスはこのフレグランスでアジア女性の美しさを表現しました。ボトルはメビウスの帯のようなデザインで永遠を意味します。前述ゲランサムサラ同様サンダルウッドとムスクが使われていますが、オムニアクリスタリンは妖艶さを完全に潜め、透明感・洗練性・輝きが冴えわたっています。
- TOP:マンダリン、コリアンダー
- MIDDLE:オリエンタルローズ
- LAST:サンダルウッド、アンブレッドシードなど
NO5の調香師ジャックポルシュによる調香で絶大なヒット作。自らの魅力で周りを巻き込んでリードするような圧倒的な存在を表現した香りとされており、現代的に言えばでデキル上司的な香り。ダンディ、渋いけれど隠せないほどの魅力がある、粋で知的といった印象を与える。後続商品エゴイストプラチナムとの決定的な違いは成熟した男性に似合う香りと言ったところでしょうか。
ウッディオリエンタルと一括りにしてみたものの、ブルガリオムニアクリスタリンと、シャネルエゴイストの印象はかなり異なります。後者はアンブレッド使用により決定的に重く動物的(野心的)。
香水の分類Hウッディノート
Blue de chanel
樹木の幹・枝・樹果から採取された香りによる調香りで、落ち着き・自若・もの柔らかい・悠々たる印象を与える。
後述するモッシーウッディ、ドライウッディによる樹木系の調香を「総まとめして端的にウッディノート」と呼ぶ傾向もあります。
- TOP:レモン、グレープフルーツ
- MIDDLE:ジャスミン、ラベンダー、ゼラニウム
- LAST:シダーウッド、サンダルウッドなど
香水の分類Iシプレウッディノート
オークモスと樹木調の香を必須にした調香で、深み・甘味・暖かみ・アースを感じさせる印象を与える。
- TOP:ジュニパー、緑胡椒
- MIDDLE:ジャスミン
- LAST:ファーニードル、オークモスなど
香水の分類Jドライウッディノート
Addiction
サンダルウッド、シダーウッドバージニア、ヒノキ、ヒバなどによる調香で、インパクト強い重厚な印象を与える。
- TOP:カシス、ルバーブ
- MIDDLE:アガーウッド、黒茶
- LAST:ドライウッドなど
香水の分類Kフゼアノート
chanel egoist platinum
ラベンダーとオークモスとクマリンを必須にした調香、 洗練性や品の良い印象を与える。どちらかと言えば男性のフレグランスが多い。
- TOP:シトラス
- MIDDLE:ラベンダー、ローズマリー
- LAST:シダーウッド、オークモスなど
なお、フゼアノートにはさらにマリン・フレッシュ・スパイシー・アンバーといった細分化されたカテゴリがあります。
香水の分類Lシプレノート
Miss Dior
ベルガモットなどのシトラスとオークモスとのブレンドを必須にした調香、女性のフレグランスが多く、その印象は多様。
- TOP:マンダリン
- MIDDLE:センティフォリアローズ、グランディフロラムジャスミン
- LAST:オークモス、パチュリなど
Cypreはキプロス島がその言葉の由来です。コティ社がロシア皇帝アレキサンドル1世に捧げた香りが原型とされ、のちにフレグランスのカテゴリとしてシプレノートが確立していきました。
キプロスは北はトルコ、東はイスラエルやシリア、南にはカイロといった都市に囲まれた多様な文化の影響を受ける地中海の島。それゆえにここでは多様な香料が手に入り、当時は地中海産のシトラスが多用されていました。
香水の分類Mアンバーノート
アンバーバルサム(樹脂が琥珀化した香料)、アンバーグリス(マッコウクジラの腸結石)が使われたフレグランスをアンバーノートと呼ぶことが多い。
※実はいずれなのか明らかにしないものも多い。
- TOP:黒茶、ベルガモット
- MIDDLE:オークモス
- LAST:アンバーなど
以上香りの選び方の参考に14種の香りの種類をお伝えしました。
最後にそういった香水がどのように調香されるのかを解説します。
調香の方法一例
音階を使う調香:香階
出典:中村祥二 調香師の手帖
英国の香料学者S・ピースは46種の香りを音階に置き換え、「香りで音階のようなハーモニーを作ると、得も言われぬ香りに仕上がる」としました。
世界で一番の香りの組み合わせと言われる「パチュリ・サンダルウッド・ジャスミン」のブレンドは以下の通りで、確かに悪くはないようです。
- パチュリ:低音のド
- サンダルウッド:ド
- ジャスミン:高音のミ
香りのピラミッド
POLA
植物性の香料でも、合成香料でも分子の大きさがあります。
植物性の香料の場合は、数百種の分子が集まってできており、小さな分子から揮発して大きな分子が重い腰を上げるようにゆっくりと揮発する性質です。
シトラスの自然香料の場合は小さな分子が集まっており、空気中に揮発する速度が速い(トップノート)。
樹木の香料は大きな分子が集まっており、揮発速度が遅い(ラストノート・ベースノート)。
トップとベースノートを組み合わせて香りを作ると「名実ともに間抜け」となってしまい、中間を行くミドルノートの香りとしてラベンダー、ジャスミンなどを用いてバランスの取れた香りが仕上がるのです。
トップ・ミドル・ラストと香りを組み合わせたフレグランスの設計図としての位置づけで、上のような香りのピラミッドがよく用いられます。
現代にとっての香りは、人が人でいるために不可欠な文化的価値を持つようになった
巣ごもりの日々によって誰かとコンタクトすることの代替案としてオンラインが推奨され、そして買い物の代替案として通販が爆発的に伸びました。
こうして私たちは日々の中で五感を使う機会を実質失い、五感に基づいた心の躍動もいつ終わるか分からない閉塞感の中で開花する機会を見計らっています。
こうした中で住環境を快適にしようとする人は多かったと思いますし、下記のようにちょっとした日用雑貨などで香りにこだわる人も少なくなかったのではないでしょうか。
インテージによる調査 N=2660
この巣ごもりの傾向は、家の中で過ごす時間が増えることにより日々暮らしている場が快適な環境であってほしいという現代人の根底的な欲求によるものです。
それは誰かに自慢するわけでもない端的に身近な環境の快適性の追求であり、フレグランスの解説で触れたような薄手のコットンシャツを纏うかのような快適な心地よい感覚に近いのだと思います。
五感が閉ざされた中で、快適性と匂いが同時に求められたというのは現代人が生理的に何を求めているかをよく物語っている。
身近な例として日用雑貨を挙げてみましたが、「コンビニでも手に入るような入手しやすい香り」というところに留まらず、行き着くところは「日々を快適にしてくれるいい香り」です。
ポストコロナの現代人にとっての香りや匂いの位置づけを分かりやすく言えば、自分のアイデンテティや自分の一部。
香水は気になる匂いを消すという利便的価値を持っていた17世紀の時代から、現代では人が人らしくいるために不可欠な文化的価値を持つようになったという意味にほかなりません。
香水という液体を使えば当然液体自体は消耗・減っていきますが、名香ならば名香ゆえにレシピが保存され、調香師によって再現されます。
評価が高ければ高いほど香りは文化的価値として残り続け、それは時が経っても消耗されないのです。
巣ごもりという環境でパーソナルエリアの快適性を向上させることに意識が向くようになった今、それはとりもなおさず自分が自分らしくいるために自らの五感と対峙する機会でもあります。
現代のフレグランスは世界中のどこで購入しても均一の香りが求められるために、その多くは気候や環境に左右されない合成香料が使用され、この均一性こそ手軽に気分を調整できるアイテムです。この合成香料の性質を気軽に活用するのもよいでしょう。
一方で自然香料はワインの如く気候も土も異なれば香りが異なり決して均一ではありませんが、近年のフレグランス業界の流れとして自然香料にこだわったフレグランスメーカーも生まれており、消費者も心身までに響く自然香料を求める傾向にあるのは確かです。
「今誰にみせる訳でもなく、ただ自分が心地よさを保てる香りを選ぶ」、このように五感の赴くまま香りを楽しんでみてはいかがでしょうか。
執筆:調香師 雨宮悠天
※ロードゥイッセイミヤケの香りはオゾンノートとも呼ばれる。